傷害事故の場合(後遺症が生じた場合)

後遺症による逸失利益

(1)後遺症とは

後遺症とは、これ以上治療を継続しても症状の改善が望めない状態になったときに残存する障害をいいます。

(2)後遺症による逸失利益の算定式
  • 後遺症による逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数によって、金額が決まります。
  • 基礎収入は、原則として事故直前の収入額とされます。被害者の基礎収入は、実務上一般に、次のような扱いがされています。
給与所得者 原則として事故前の年収を基礎年収とします。証明資料としては、通常、事故前の源泉徴収票が用いられます。もっとも、現実の収入が統計値である賃金センサスの平均賃金以下の場合であっても、平均賃金程度の収入が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎年収とすることもあります。また、30歳未満の若年労働者においては、全年齢平均の賃金センサスを用いることを原則としています。これは、学生の逸失利益算定にあたっては、賃金センサスの平均賃金を用いていることとの均衡を図るためです。
主婦 家事労働も財産的な評価をすることは可能ですから、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とする扱いになっています。
なお、有職の主婦の場合には、実収入が上記の平均賃金以上のときは、実収入に従い、それ以下のときは平均賃金に従うこととされています。
会社役員 役員報酬のうち、労務提供の対価部分と利益配当の部分を分けて、労務提供の対価部分のみを基礎年収とします。
個人事業者 原則として事故前年の確定申告額を基礎年収とします。税金対策のため過少申告していて、現実の収入はそれ以上であると主張する方がいますが、このような主張は通常は認められませんていないときでも、相当の収入があったと認められるときには、賃金センサスの平均賃金を基礎とすることが認められています。
失業者 労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるときは、原則として失業以前の収入を参考として基礎年収が決められます。ただし、失業以前の収入が賃金センサスの平均賃金以下であっても、平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別の平均賃金によることとなります。
幼児・生徒・学生 原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とします。なお、女子の場合は、男女別ではなく、全労働者全年齢平均賃金で計算すべきという判例がありますので、その判例に沿って請求すべきです。
高齢者 就労の蓋然性があれば、原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者年齢別平均の賃金を基礎年収とします。
  • 労働能力喪失率
    ■労働能力喪失率の認定を受ける方法
    自賠法では、症状固定後の症状を「後遺症別等級表」にあてはめて、損害保険料率算出機構あるいはその下部組織の調査事務所が等級認定を行います。これは、裁判実務上も重要な基準とされています。
    なお後遺症等級の認定を受ける方法には、次の3つがあります。
    1. 事前認定
      加害者側の任意保険会社に手続をしてもらう方法であり、最も一般的な方法です。任意保険会社は、後遺症診断書や画像などの資料を公法人である損害保険料率算出機構に提出し、等級認定を求めます。
    2. 被害者請求
      これは、被害者が自ら算出機構に等級の認定を請求する方法です。被害者が自分で必要書類等を整え、加害者の自賠責保険会社に提出します。その後、自賠責保険会社から、算出機構に書類が回付され等級が認定されると、自賠責保険会社に書類が戻り、被害者に通知されます。 この方法は、手続の透明性が高く、提出書類も被害者が自ら検討して取捨選択することが可能です。また、等級認定されると自賠責部分の賠償額が先に支払われるという利点もあります。他方で、この方法には手間がかかるというデメリットがあります。
    3. 受任請求
      これは、被害者請求を、業務として行うことが法律上認められた弁護士等の有資格者に依頼する方法です。

被害者が損害賠償を請求できる逸失利益や慰謝料の金額は、後遺症がどの等級に認定されるかによって大きく影響をうけることになります。この等級は1級から14級まであり、1級が一番重く、14級が一番軽いものです。しかし、むち打ち症のように被害者自身には自覚できる後遺症があっても、それが必ずしも後遺症の等級として認定してもらえないこと(非該当)も現実に多く存在します。

 後遺症を負った被害者による損害賠償請求にあたっては、後遺症の実態をより正確かつ適切に反映した等級の認定を得ることが極めて重要になります。後遺症害の等級認定に不服がある場合には、異議申立てをすることができます。
異議申立ては、事前認定の場合には、被害者が任意保険会社に異議申立てを行い、任意保険会社が算出機構に対して事前認定に対する再認定の依頼をすることになりますが、被害者が異議申立ての理由等を記載して任意保険会社に再認定の申請を依頼しても、任意保険会社が必要ありと考えない場合には、その申請を行わないこともあり得ますので、被害者請求に切り替えて異議申立てをすべき場合があります。被害者請求の場合には、自賠責保険会社に対し申立書を提出します。異議申立てのためには、反論すべき根拠を書面にして主張する必要があります。ただし、反論するためには新たな資料が必要になります。そこで、診断医の意見書、専門医による新たな診断書、未提出の各検査の結果、交通事故の刑事記録などを用意する必要があります。 後遺症別等級表・労働能力喪失率は次の文字をクリックしてご覧下さい。

  • 労働能力喪失期間
    労働能力喪失期間とは、後遺障害を被ったことによって、労働能力が制限される期間をいいます。労働能力喪失期間の始期は症状固定日(未就労者の就労の始期については原則18歳とするが大学卒業を前提とする場合は大学卒業時)です。
    労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳(症状固定時の年齢が67歳をこえる者については原則として平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします)ですが、後遺障害が痛みやしびれなどの神経障害だけの場合、労働能力喪失期間が5年程度に制限される例が多く見られます。虎ノ門法律経済事務所では、交通事故被害者の方の後遺障害の症状、仕事の内容等を具体的に主張し、できるだけ労働能力喪失期間が長く認められるよう、お手伝いします。

    なお、ライプニッツ係数とは、中間利息(5%)を控除するための一定の係数をいいます。逸失利益については、将来にわたる労働能力喪失に関する賠償について現在時点ですべて賠償してもらうことから、将来得られたはずの収入を現在の価格に計算しなおすため、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を掛ける必要があるのです。

後遺障害慰謝料

後遺障害が発現すれば、それ自体に対し、慰謝料が認められます。入通院の慰謝料とは別です。 この慰謝料の額も、原則として後遺障害等級によって判断されています。
そして、その等級に対する慰謝料の金額基準は下記3種類があります。

  • 裁判所基準(弁護士会基準)
  • 任意保険基準
  • 自賠責基準

後遺障害等級と慰謝料の額の比較

  裁判所の慰謝料(平均) 任意保険の慰謝料 自賠責保険の慰謝料
1級 2600~3000万円(2800) 1300万円 1100万円
2級 2200~2600万円(2370) 1120万円 958万円
3級 1800~2200万円(1990) 950万円 829万円
4級 1500~1800万円(1670) 800万円 712万円
5級 1300~1500万円(1400) 700万円 599万円
6級 1100~1300万円(1180) 600万円 498万円
7級 900~1100万円(1000) 500万円 409万円
8級 750~870万円(830) 400万円 324万円
9級 600~700万円(690) 300万円 245万円
10級 480~570万円(550) 200万円 187万円
11級 360~430万円(420) 150万円 135万円
12級 250~300万円(290) 100万円 93万円
13級 160~190万円(180) 60万円 57万円
14級 90~120万円(110) 40万円 32万円

※この額もあくまでおおよその基準であり、絶対的なものではありません。

将来の介護費用

後遺症の症状固定後の将来の介護費用につき、職業付添人の場合は実際に支払った介護料全額、親子や配偶者等の近親者の場合は、常時介護か随時介護か等の具体的状況に応じて金額が増減しますが、1日あたり6500円~8500円が賠償すべき損害として認められています。
介護を要する期間は、原則として、被害者の生存期間であり、厚生労働省が作成している簡易生命表の平均余命により算定するのが実務の大勢です。
簡易生命表は次の文字をクリックしてご覧下さい。

介護費の支払いにつき、一括で賠償する方式でなく、定期的に賠償する方式を認めた裁判例もあります。ただし、被害者側が一括での賠償を求めている場合には、裁判所が定期的に賠償するよう加害者に命ずる判決をすることはできません。 将来の介護費用について次のような裁判例があります。

裁判年月日 事例 賠償額
神戸地判
H13.7.18
後遺障害併合1級の被害者(51歳男子)の将来の介護費用について、65歳以降は介護保険の介護サービスを受けることができるという加害者側の主張を考慮せず、平均余命の全期間を通じて日額¥10,000で認めた事例 将来の 介護費用:
約5,438万円
東京地判
H15.8.28
後遺障害併合1級の被害者(21歳女子)の将来の介護費用について、母親が67歳になるまでの期間は日額¥11,692、それ以降は日額¥24,000で平均余命分を認めた事例 将来の介護費用:
1億3,200万円
東京地判
H16.6.29
後遺障害1級3号の被害者(27歳男子)の将来の介護費用について、母親による介護が可能な期間は日額¥8,000、家族介護と職業介護を併用する期間は日額¥15,000、職業介護のみの期間は日額¥20,000で認めた事例 将来の介護費用:
1億765万円
大阪地判
H21.8.25
後遺障害9級10号の被害者(57歳男子)の将来介護費用を平均余命期間にわたり、日額¥4,000で認めた事例 将来の介護費用:
約2,015万円

器具代、住宅の改造費

自動車事故により後遺症が残った場合、日常生活に支障が生じることから、身体機能を補うための器具や、住宅の改造が必要となる場合があります。このような器具の購入や、住宅改造に要した費用は、後遺症の程度や生活環境等を考慮して、身体機能を補うために必要かつ相当な限度で、賠償が認められます。
裁判例としては次のようなものがあります。

器具代

裁判年月日 事例 賠償額
名古屋地判
H14.1.28
遷延性意識障害の18歳男子の症状固定後の装具等について、車椅子については5年ごと、電動ベッドについては8年ごと、福祉自動車については10年ごと、足調整具については3年ごとの買換が必要であるとして器具等購入費を認めた事例 約1,238 万円
仙台地判
H21.11.17
後遺障害1級の被害者の介護器具購入費について、加害者側が介護器具の購入にあたっては公的扶助の存在があることを主張したところ、公的扶助の存在をもってその認定額を覆すのは妥当でないとした事例 約1,608万円

住宅の改造費

裁判年月日 事例 賠償額
名古屋地判
H15.3.24
後遺障害1級3号の被害者(60歳男子)が、事故から約3年後に、充分な介護を受けるため、通院の利便性や介護者の負担などを考え、マンションを購入した際に、住宅改造費としてマンション購入費用の10%を事故と相当因果関係を有する損害と認めた事例 379万円
名古屋地判
H17.5.17
後遺障害1級3号の被害者(33歳男子)の損害として、家屋床面積の拡大工事、エレベーター設置工事等、家屋改造費用約1,025万円を認め、天井走行リフター設置工事、段差解消機設置工事、エレベーター修理工事等、将来の家屋改造費として、約243万円を認めた事例 住宅 改造費:
約1,025万円
将来の家屋改造費:
約243万円
東京地判
H19.5.30
事故により遷延性意識障害となった被害者(症状固定時22歳)の自宅に設置されたエレベーター取替費用、その保守点検費用を平均余命分認めた事例 約2,216 万円
 

Back to Top